特集 ”少子高齢社会における複合施設の役割”
―世代間交流の日常化を目指す複合施設の現場から―
夕方、近くのスーパーに買い物に行った母と娘。我が子が知らないおばあさんに駆けより、何やら親しそうに話している場面があったそうです。後で誰と話していたのか娘に質すと、園の世代間交流の場面から、仲良しになったAさんとのこと。とても感激したとあるお母さんから報告がありました。
核家族に育つ子と、祖父母が同居、近居する子との違いって何でしょう。例えば、遊びの発想が柔軟だったり、個性的な表情が豊かだったり、人への思いやりや優しさがあるとすれば、それは父母とは違う祖父母の存在など関係性の幅に広がりがあるからかもしれません。
来るべき高齢化社会に対応し、保育所に老人デイサービス事業の複合化政策が推進されたのは、平成5〜6年頃でした。当時議論されていた老人福祉は、収容型の措置構造から、通所や訪問など在宅支援活動の広がりや地域福祉活動への転換にあったからです。そのため市町村が策定するゴールドプランを推進するため、全国に点在する保育所に複合施設化への条件整備を行うことになりました。
処で、保育所と老人デイサービスの共通点といえば、第一に福祉を基盤にすること、つまり対象こそ違え、人が人を援助する基本理念が根底にあり、社会福祉法人という共通基盤があることです。第二に両者とも住みなれた地域に所在すること、第三に日常生活を支援する福祉サ―ビスにあるということでしょうか。ですから当園は、待機児の多い保育所ですが、あえて平成7年、地域福祉や世代間交流を目標にデイサービスセンターを設置、複合しました。
きっかけは園が、既に70年代から続けてきた市内の特別養護老人ホームとの交流や地区内独居老人宅への訪問活動等を通じ蓄積してきた交流ノウハウがあったからです。しかしそうした交流には、福祉的な役割を担う保育効果が期待される反面、ややもすると緊張するイベント的な場面に陥りやすい傾向があります。
とりわけ、核家族に育つ子ども達への保育課題や介護度が重く心身が弱くなった高齢者との交流をイメージする時、もっと自然体の場面で日常交流する必要があることを痛切に感じるのです。しかも複合化は、交流場面の評価を保育者側による一方的な視点に留めず、同時に両サイトから効果測定できるという利点を持っていたのです。
あれから8年、福祉改革の大きな流れは、介護保険や支援費制度にしても、新会計基準や第三者評価にしても、子ども、障害者、高齢者それぞれ領域ごとに対象区分し、輪切り状態に分断する傾向が加速しています。
深刻な少子高齢社会であればこそ、複合化の真意を検証し、地域福祉的な活動を強力に推進すべきですが、私達の意に反し改革の方向は、合理性を追求するあまり、形骸化した直接サービスに偏る傾向が危惧されます。それゆえ今回は、全国各地の複合施設を中心に実地調査を進めている数少ない研究者、北村安樹子さんにお願いして、次のコメントを寄せていただきました。
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