(2000年12月1日号) |
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「"苦情解決制度"の導入と
"第三者評価"について」
−父母と保育者とのコミュニケーション活性化を目指して− |
特集 二年間にわたる福祉基礎構造の見直し改革によって、新社会福祉法が成立しました。その第一条に、福祉事業の目的を利用者の保護と地域福祉の推進と明記され、また第三条の基本的理念には個人の尊厳と自立への支援が記されています。それは,福祉施設を利用する制度が、大きく措置方式から契約制度の方向へ移行することを示唆しています。 最も、改正された保育制度は、ストレ一トな直接契約とはせずに、公的責任を介在させていますが、それだけに利用者主権を柱にした様々な改革条件が示されています。それが情報の提供,財務諸表の公開、苦情解決制度の導入、そして保育サ一ビスの質的評価制度です。 早速、保育所最低基準が改正され、苦情解決の仕組みが示されたことを機に、当福祉センタ一さがみ愛育会〈渕野辺保育園・夜間保育所ドリ一ム・悠々デイサ一ビスセンタ一〉は「苦情解決制度基本要綱」を策定し、利用者に周知、活動を開始しました。 |
≪ 福祉センタ一さがみ愛育会「苦情解決」制度の基本要綱について ≫ 1 趣旨 渕野辺保育園、夜間保育所ドリ一ム及び悠々デイサ一ビスセンタ一の利用者からの保育や介護サ一ビス等に関する様々な苦情や不満について適切に対応、その解決を図るために本要綱を策定する。 本件は2000年6月7日に施行された新社会福祉法が利用者主体を基本理念とし、福祉施設に苦情解決に応える指針が示されたことによるが、それらはかって水面下に潜在していたネガティブな心情を表面上に現す解決方式としての「苦情の自由化」を推進するものとみることができよう。 ここでは主に利用者の基本的人権を擁護するとともに、福祉施設の質的処遇向上を目指すため苦情解決の体制や手順などを明らかにすることにより日常的な利用者との信頼関係を構築し、社会的適正化を期するものである。 2 目的 〈1〉 苦情への適切な対応によって、利用者の満足感を高めること。 〈2〉 納得のいかないこと等、一定のル一ルによる方法を通じて理解し、疑問を解決すること。 〈3〉 福祉施設内の虐待等を抑止し、利用者の基本的人権を擁護すること。 〈4〉 利用者が適切なほいくサ一ビス、介護サ一ビスを選択できるようにすること。 〈5〉 施設全体や処遇職員一人一人に一定の緊張感を与え、意識を高めること。 〈6〉 苦情等を密室化せず、客観性を確保し社会的な公正性を確保すること。 〈7〉 利用者や地域社会から信頼される福祉施設を目指すようにすること。 3 苦情解決の体制 (1)苦情解決責任者 渕野辺保育園長 松岡 俊彦 夜間保育所ドリ一ム園長 若林 文子 悠々デイサ一ビスセンタ一所長 松岡 世津子 ほか理事9名 〈2〉苦情受付担当者 渕野辺保育園主任 霜降 靖代 分園ほのぼの主任 若林 真知子 夜間保育所ドリ一ム主任 土屋 なおみ 悠々介護支援センタ一担当 保坂 はるみ (3)第三者委員 社会福祉法人さがみ愛育会監事 新倉 勝 氏 和泉短期大学教授 武石 宣子 氏 横浜女子短期大学講師 手塚 友子 氏 4 苦情解決の手順 (1) 利用者への周知 福祉施設内の掲示板、情報誌、園だより、ホームページ等により事前に周知活動を徹底する。 (2) 苦情の受け付け 各福祉施設の苦情受け付け担当者は、利用者からの苦情を随時受け付ける。その際、次の事項を書面に記入し、苦情申し出人に確認する。(内容、希望、第三者委員への報告の要否、第三者委員の話し合いへの立会いの要否など) (3)苦情受付の報告 各福祉施設の苦情受け付け担当者は、受理した苦情をそれぞれの福祉施設の苦情解決責任者と第三者委員に報告する。(苦情申し出人が第三者委員への報告を明確に拒否した場合は除く) また匿名の苦情は、第三者委員に報告することを原則とする。報告を受けた第三者委員は内容確認後、苦情申し出人へ受理した旨を通知する。 (4) 苦情解決の話し合い 苦情解決責任者は、職員代表による苦情解決委員会を別に組織し、充分検討の上、苦情申し出人との話し合いに努める。その際、必要に応じ第三者委員の助言を求めることができる。第三者委員立会いによる話し合いは、一名以上の第三者委員同席による苦情内容の確認、第三者委員による解決案の調整、助言、話し合いの結果や改善事項等の書面での確認により行う。 〈5〉苦情解決の記録と報告 苦情解決や改善経過を生かすため、次により記録や報告を重視する。 苦情受付担当者は、受付から解決、改善迄の経過と結果について記録する。苦情解決責任者は、苦情解決結果や改善事項について半年毎に第三者委員に報告し、助言を受ける。 (6)解決結果の公表 個人情報に関するものを除いて、毎年度終了後に事業報告書やホームページなどを通じて苦情解決の実績を公表する。 この基本要綱は平成12年9月1日から施行する。
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この苦情解決基本要綱にある「第三者委員」に委嘱した武石宣子先生(和泉短期大学教授)から次のコメントが届きました。 |
―苦情解決制度をおける第三者委員の委嘱を受けて― 保育や介護サービスを受ける人は、弱い立場に置かれることが多く、利用者の権利や利益を擁護していくことは大切な問題です。そこで福祉施設に対する利用者の苦情を処理する「苦情解決制度」の存在は重要な意味をもつことになります。主な活動を列挙すると次のようになります。 @周知活動の徹底 A苦情申し立ての受付け B苦情に対する調査・審査・通知 C是正を求める意見表明 D是正処置・制度改善について実施機関からの報告 E処置状況の公表 この一連の流れの中で第三者委員は、実施機関の決定及び運営に対して、実施機関とは独立した立場で意思決定されます。おなじみのオンブズマンは、「代理人」を意味するスウェーデン語ですが、行政活動を調査し苦情を処理する機関として位置づけられています。その先進国と言われるスウェーデンでは、消費者、男女、人種差別、子ども、障害者等々多岐にわたる分野での専門的なオンブズマンが存在しています。 いま日本でも、福祉サービスに限ってのオンブズマン制度の設置が議論されていますが、その前段としてこの苦情解決制度の導入には多くの期待が寄せられています。しかし忘れてならないのは、いつでも第一に考えるべき対象者はサ―ビスを受ける利用者にあります。 幼い子どもを例に上げれば、自分の思いや考えを表現できる能力が充分ではありませんから、親の立場からの訴えになりやすいのです。それゆえ苦情解決を行う能力の条件が乏しい乳児や障害児ほど、この苦情表明の保証は私達大人の姿勢や対応が問われてくることになります。 今回発足された「苦情解決」制度の真の意味は、質的な向上を通じて信頼される福祉施設を目指すとともに、サービス利用者が権利の主体者であるという認識を、全ての人々が知ることにあるのでしょうね。 第三者委員(和泉短期大学教授)武石 宣子 |
従来の制度では、法による行政指導や自己内研修等を通じて、個々の施設ごとにサービスの質的向上に努めてきましたが、それらは内容はともかく自己中心的な論理でした。ですから真に利用者の視点に立つ苦情解決制度の導入には、一定の緊張感をもって前向きに取り組む姿勢が欠かせません。 しかしながら武石先生ご指摘の通り、保育園は幼い子ども達、デイサービスは介護サービスを利用する高齢者が主体者になります。この場合、主体者の代弁者となる保護者や介護者のスタンスとはどうなるのでしょうか。幼い子どもの立場にたって考えてみましょう。 フロイトの精神分析によると、人の心には意識の世界と無意識の世界があります。幼い子どもが愛する親から虐待された場合、現実ではないという抑圧が強く働き、無意識の世界に閉じ込め、決して虐待されたとは言わないことがあります。例えば親の気分で、楽しみにしていた保育行事に参加できなくても,親をかばう子どもの心が,その欲求を無意識の世界に閉じ込めてしまうのです。 それは多分「いじめ構造」の被害者意識と同じですが、幼い子どもは心を分担し、使い分けるしかありませんので,多重人格的な傾向になるのも否定できません。また便利で快適な生活の慣れが、我慢することができない欲望だけを肥大化させている社会ならば,子ども達に「本物の生活」をする中で苦しみ,悲しみ,我慢、耐える等に直面する保育を体験させるのは義務だと考えます。 そのために保育者の人間観や生活感情が問われるのですが、しかも基礎をつくる乳幼児期には5年先10年先を考えながら働きかけていく保育が必要になるはずです。こうしてみると代弁者となる親はどういうスタンスになるのか、そして子どもは日々発達している存在であり、物理的な豊かさのみでは決して得ることができない心の育ちへの自覚など克服すべき課題はたくさんありそうですね。 そのためには代弁者となる父母が保育現場に精通するのが理想ですから、園には思いきった意識改革が必要になります。 例えば、保育計画等は各クラスからその都度配布されていて、定期的な保育懇談会や保育参加はもちろん特に家庭訪問を大切にすべきです。また一日保母などボランティア体験には、自ら保育計画を立てて実践するのを援助するような取り組みも保育内容を理解するために効果的です。 保育者の思いを記した園だより、クラスだよりはもちろん、ホームページ゙にもメッセージのやりとりができる掲示板を用意する等、工夫する手応えは期待できるように思います。そして園全体やクラスの掲示板を重視することに加え、特に家庭との連絡帖は重要な役割を発揮するはずです。 家庭からみれば、園の様子ばかりか保育者の思いや情熱が伝わるし、保育者も家庭での様子はもとより親の考えや子どもの見方も伝わってくるからです。 いずれにせよ苦情解決制度の導入には、基本的な園の開放姿勢、特に父母と保育者が共感できるコミニュケーション関係の活性化が欠かせません。 単に制度だけ一人歩きすれば、親の好みに沿った近視眼的、物理的なレベルでの対応に終始し、幼い子ども達の育ちを保証する本物の保育が軽視されることになるからです。多分それは、いま国が検討してる「第三者評価」基準つくりにも、大切な課題になるべきでしょうね。 |