特集 保育制度は改革時代といいますが、具体的な個々の保育園の課題といえば、どうなるでしょうか。例えば、待機児解消への取り組み、多様な保育サービス機能の創設、そして地域の子育て支援事業の展開などが問われています。しかし、特に社会福祉法人の保育所が忘れてならないことは、「保育の質」へのこだわりにあると、肝に銘じて自覚すべきでありましょう。ちなみに、いま待機児の解消を目指し、規制改革、規制緩和の施策がどんどん進められていますが、それは「保育の質」を保障する取り組みとリンクし、一体化したものであることが条件です。 やがて21世紀の中枢を担う幼い子ども達ですが、残念ながら核家族の都市化されたコンビニ社会にとっぷり浸かって育てられています。その子ども達を、いわゆる見てくれのいい、ライセンス方式などマニュアル化された保育でいいのか、今こそ私達は保育のプロとして真剣に考える義務があるはずです。それが、保育の質を高めるために策定された「第三者評価」システムの導入にあるのでしょう。 処で、保育所など福祉施設には、昔から最低基準を維持するために法による指導監査が行われてきました。しかし、それは事務や会計処理など管理部門でのチェックが中心で、保育内容の評価は不充分でした。きっと、保育の質を検証するといっても、量的評価の物差しでは測定することが難しいため、担当官から敬遠されてきたのでしょう。このため、園それぞれが保育の質を高めるために独自の判断で、採用、異動、昇給等の人事面に加え、OJT、OFF―JT、公開保育方式など、多様な研修方法を通じて、保育内容の向上を目指してきました。 しかし仮にそれらが、良識ある自主的な取り組みであったとしても、外部の視点を排除した非公開方式による自己満足の域から脱することはできませんでした。処が、'90年代の後半から始まった一連の社会福祉基礎構造改革によって事態は一変し、新たに利用者評価という視点が急浮上してきました。即ち、福祉施設には苦情解決制度の導入など、利用者サイドからの意見、評価、クレーム等、きちんと受け入れる構図が示されたのです。 それは、利用者あっての保育所であると自覚すれば、今までの保育観に無かった領域、新しい視点からの保育価値観を再創造するという大きな転換期になりました。しかし、利用者も一方の当事者ですので、中立性、専門性をキーワードに甲乙という当事者にない座標軸として、新たに第三者としての評価機関を求める背景が生まれてきたのです。 平成10年、国は「福祉サービスの質に関する検討会」を発足させ、試行検討を重ねつつ、ようやくこの3月末日に最終報告の「児童福祉施設における福祉サービスの第三者評価基準等に関する報告書」をとりまとめました。そこで今回は、当初からその検討委員として、中心的な役割を担ってきた元厚生省児童福祉専門官の柏女霊峰先生にお願いし、次のコメントを寄せていただきました。
柏女先生が指摘したように、第三者評価は受動的に「受ける」ものでなく、主体的に「活用する」ことによって、保育の質を高めていく手段であると自覚します。そのためにも当園では本年度、若手の保育者を中心に「第三者評価検討委員会」を立ち上げ、策定された評価基準を項目別に一つ一つ検証する作業を開始しました。何より大切なことは、全職員の意識改革によって自己改革に向けて大胆な取り組みをすることが欠かせないからです。また全体評価の一環に、利用者アンケートが用意されていますが、基本的には保育所が利用者のためにある以上、利用者から受容されない保育サービスは、評価のしようがありません。 ちなみに昨年度は当園でも、匿名方式によるアンケートを実施しましたが、園の中からでは到底気付かなかった意見や指摘をいただき、新しい発見をした手応えが充分にあります。ただ、利用者側にも外部視点からの評価や父母が就労する条件等に偏るような弱点がありますので、普段から日常保育の意味など適格に伝えるコミニケーション関係が大切になるのです。その上で第三者評価には、具体的な保育内容など、マニュアル化すべきでないような領域をどう評価するのかが課題です。 例えば、リスクマネージメントなど定型的な領域には、策定したマニュアルを全職員に徹底すべきですが、保育現場での具体的な取り組みなど保育の質をマニュアルで保障すべきでないと考えるからです。ちなみに、前述の保育臨床と言えば、人と人との情緒的な相互関係を基本とし、子どもとの係わりの中から組みたてる保育にあります。そうなると、問われるのが評価基準と並んで評価担当者の専門性や豊かな実務経験になるのでしょう。きっと柏女先生が指摘するように、最後は個々の保育者が行う業務の職務分析にかかってくるのでしょうか。 いずれにせよ、いままでの保育が主観的で曖昧な部分が多くあったとすれば、これからは、いかに保育を科学していくかが課題です。それが、この調査して検証し、公表してコンサルティングしながら、保育の質を高めるための取り組み、第三者評価制度の真の意義になるのでしょう。なお、利用者が選ぶ手がかりとして第三者評価結果の公表が課題ですが、一定基準を超える保育所には星印のランク付けでなく、その園の特徴を紹介するような評価にすべきであるのではないでしょうか。 なぜなら個々の保育所には、全国一律の金太郎飴?でなく、創設の理念、規模、沿革の歴史、地域性等によって、それぞれ育まれてきた個性が輝いているからです。
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